「夜歩く」はアクロイドもどき、と書けばミステリーマニアには説明は不要でしょう。
三文探偵小説家である屋代寅太が呼ばれたのは、要するに八千代が共犯者だからですね。
屋代は古神・仙石両家と一見無関係である故に捜査陣から局外者として見られ容疑者から外れていた訳ですが、金田一耕助が最初から関与していればこの事件はほとんど速攻で解決していたでしょう。
(実際に金田一が登場してからは急転直下ですね)
登場人物は、依頼人の仙石鉄之進氏以外誰も金田一(の実績)を知らなかった訳で、彼の知名度はまだまだ知る人ぞ知るというレベルだったのでしょう。
ただ、仮にも探偵小説家を名乗る屋代寅太が彼を知らなかったのは致命的でした。
そして知名度では横溝作品でも一・二を争う「八つ墓村」です。
金田一本人は「いいところは少しもなかった」と謙遜していますが、彼が居なければ少なくとも主人公寺田辰弥は生き残れなかった可能性が高かったと思われます。
再読して考えたのは森美也子は本当に夫を殺したのか、と言うこと。
夫を殺してその財産で悠々自適な未亡人、と金がない男に財産を相続させて結婚を申し込ませようとする悪女、というのがいまいち繋がらないんです。
前者は(殺人という)手段と結果がダイレクトなのに対して、後者は確実性が無さ過ぎる。
本当に病死だった可能性も有りますし、あるいは日本の敗戦を予感しての自殺だったのかも。
(これが山田風太郎だったら、慎太郎が美也子に殺意を吹き込んで一人勝ちしたとか言うオチになりそうなんですが)